2012年11月11日日曜日

きやらぼく2012/10


◇山崎文榮
桜の葉が一枚一枚ふる石の下の鈴虫
暮れると月が土工さんの忘れたスコップ
雨降ってとっぷり暮れた椿の葉の艶
とんぼ帰りの愚痴を八十九才の体
マネキンとウインドー磨く人が中にいる

◇藤田踏青
セメントと無神論者が乾いてゆくよ
着信音途切れたころの恋占い
目交(まなかい)の闇掘り下げている水枕
淋しくはないが筑前琵琶の小さい影
犬の瞳に劇中劇の遠雷が

◇前田佐知子
おかゆに塩がきいて初秋です
何のわだかまりなく漬物ぱりぱり食う
秋の日だまりがよい猫とわたくし
夕陽極まれば秋いよいよ深し
みんな秋になったふる里の雲

◇山本弘美
人生の秋も深まり秋桜より千日紅に
蒼く爪弾いて眠らせぬ月あかりの琴
どこの気付で出せばいい母への便り
古い腰紐にわたしの名前母の手跡で
音符か活字かはたまた夜長の潰し方

◇後谷五十鈴
突然の雨に揺らぐ男と女と残りの秋
堰を切って季節が逝く幽かなベルの音
追伸は秋の極り文句花も葉も散り果て
躓き季節の狭間にとり残されている
慌しく生きて何処へ穏やかな秋の日

◇谷田越子
影がぼやける小さくなった太陽の歯形
ためらいながら鰯雲そらの布団たたむ
あの席に置いてきた遠い背中が振り向く
こころ揺らすコスモスの影の模様
鳳凰に道を譲り青い歓声が空に届く

◇天野博之
読み切った本誰に話そう蟋蟀の秋
散歩中つるりと解けた鰯雲の暗号
自死へいざなう夢を逃れ朝が眩しい
素知らぬ顔で鏡に秘密を投げ入れる
彼岸花遅れて咲いた不機嫌の理由

◇三好利幸
胸の炎群も合歓は雨に濡れ
障子に隙間のただ光見ている
なにゆえ涙し凝視する夜の庭
蒼き肌の語る月に囚われた顛末
たそがれしずかにぷりんをすくう

◇幾代良枝
今日が明日へ変わる午前零時の呪縛
ワイパー号泣し走りぬけた水中花の街
月の見えない夜の樹々の深いため息
やがて洗濯物は満天の星に深夜の階段
原発なんかいらんねんというバッチ君の胸にも