2012年6月24日日曜日

きやらぼく2012/06


◇幾代良枝
壺にトルコ桔梗あふれ女が魔性のとき
干し上げた洗濯物に甘い夜風の追憶
雨の日は雨に落ち物言えぬ人と
雨あがりの空へ女は密に紅を溶く
昼下がり弦楽四重奏になったイマジン

◇谷田越子
紫陽花に降る雨の音のない哀しみ
今日が一番の日でいたい石楠花満開
考え事に蓋をして今日を枕に埋ずめる
心色づいて昨日と違う窓の模様
独りになれなく不揃いの雲一斉に動く

◇天野博之
不審死した神を司法解剖する
妄想ぐるぐる頭蓋骨に反響する音
躓いた場所くずれ始めて逃げまどう
ふと舞いあがり光の線引き闇を愉しむ
隠せば知りたがる木洩れ日の戯れ

◇藤田踏青
落椿 汝はアルカリ性か酸性か
善人も悪人もマスクする破れはちす
鼻の中 いびつな山脈に銃声
春寒の糸をたぐれば満州帝国
友人という言葉の端にメロンパン

◇前田佐知子
春の花の切手を貼りポストえゆく
梅雨がきたとゆう今日の空を仰ぐ
お堂の守をお地ぞう様春の花は終りました
小判草びらびら坂一ぱいを上ってゆく
昼のチャイム遠く初夏の雲が切れてゆく

◇後谷五十鈴
五月の木の葉透け太陽欠けていく
太陽冷えびえと濃密な山の色も褪せ
初夏の木洩れ日を融合した月と太陽
生きて鬱蒼とした茂みに囲まれている
半夏生強く匂い出口のない白い花

◇三好利幸
釘抜き刃が欠け凍てる風
冥い空陰鬱なる犬の来る
彩雲喪失やがては笛など聞こえ
春白日迫撃砲は花と交わり
桜葉風に母の下駄音乱れず

◇山本弘美
ケータイに起こされ行かされ踊らされ
頑なにうつむいてサルビア色の後ろ姿
金環かツリーか上ばっか見てるところぶよ
空に爪たてひっぺがしたい傀儡師の面
電波塔に串刺しにされた男の影が蠢く

◇山崎文榮
降ってくれなずむ風景と少しのワイン
バラが外灯にともって窓にすけ写る
過密の孤独な夕焼けを野良犬空を嗅ぐ
山が太古のいぶきを太陽秘めごとめき
萌える葉ざくらの下都わすれ水色

◇広瀬千里
雨音に今日を預けてなすがまま
風 憂いを含んで今日を色どる

◇山田風人
満面の笑み水田(みずた)に浮かぶ堕落論
何をか在らん水田の加減のよろしいこと