2012年1月28日土曜日

きやらぼく2012/01

◇藤田踏青
雀と山鳩と 落城の跡らしい
大きな橋脚が呼吸している島影
余命いくばくも懐中時計の冷たい鎖
目と耳を落していった雨の舗道
祝宴は果てた淋しいハラワタ

◇山崎文榮
雲のなかのきれぎれの回想
暮れる雲に染まり風の流れと遊ぶ
月が傍まできて地球どこかで争う
一枚の落葉を夢で大切に眠る
タクシーで行く道冬の素顔見て通る

◇山本弘美
男と女のやじろべえ黒白(こくびゃく)はどちら
煙を追って定まらぬ視線のその先
足枷を軽々蹴とばし置き去りの羨望
別れはさまざま痛みは鮮やかな刺青(タトゥー)
指で口角上げてみるいつか春は来る

◇天野博之
腕を組もうか肩を抱こうか躊躇いながら飛行雲
そのまま別れた意気地なしをユリカモメが笑う
観覧車に乗らずじまいでいつか君と
濃厚な二人の朝をエスプレッソの香り
シラーの詩諳んじると雲間の朝日が今日をのぼる

◇後谷五十鈴
無心に綾取りするその背の幼さの日差し
水鳥と青いコートの似合う幼きと遊ぶ
時計が読めて帰り待つ児の端正な横顔
エスコートする孫の小さな掌の安らぎ
旅の終りは赫々と富士の頂きも寡黙で

◇三好利幸
セミガラ軽くかすれる樂典
何の骸ぞアスファルトの染み
あおぞらさむぞらのあさとなる
沈み行くも鼓動ひとつごと
風は死して浸る乳白色

◇前田佐知子
体にコンマをうちながら寒いくらし
コンビニのおにぎりがうまいお正月
遠山(とうやま)に雪がある元旦が暮れる
音のない雪スタンド消して寝るとしよう
瞑ると白い炎密かに燃えて吹雪く夜

◇谷田越子
絡みつく光の視線を朝が配りきれない
おみくじを春陽に結びいいことありそうな
足並み揃えて石段上る新しい風が騒ぐ
夜が通り過ぎる葉を落とした樹々の影
残雪に重なる雪の白さ時は流れ過ぎて

◇阿川花子
違う世の人と元旦向き合って晩餐
同じのが四ツと無い溜りにたまった釦
とんどに焼(く)べるシメに酒器の触るる音
憂を私にと子の衣纏いとんどの炎に向う
その愛ってふっと今問うてみたいなんて

◇幾代良枝
あの夜何物かが抱きとめてくれたいのち
何も知らずコインランドリーに乾いた物
年の瀬追突の車は何を考えていたのだろう
胸の空洞抱えて帰れば安らかな寝息の
淡雪疵だらけのくるまにお別れを言う

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