2011年8月28日日曜日

きやらぼく 2011/08

◇山崎文榮
色がわりした切符のしまってある抽斗
一時の雨が遠山まで透明にした夕日
城の窓夕焼け哀愁映し暮れる
むし暑さのクチナシの溶かした芳おり
あさがお夕べの雨に霧ふくんでいる

◇藤田踏青
清貧という煙草盆が一つ
過去形の波にもぐり込む平家蟹
ルージュが味見している金管楽器
たそがれはしゃねるのはーばーらんど
しっぽの何処かに潜んでおる血族

◇山本弘美
みんな同じさとあおむけに落ちた蝉
毎年の台詞か今年の夏はキツい
空青く花は咲くひとは笑える明日がある
人生(ドラマ)をつまらなくするパソコン携帯電話
脚長くみなおんなじ顔のムスメたち

◇斎藤和子
大芝居どこからもれる樽の水
夏空一筋の雲を埋まらぬ心の空洞
北海道土産と云うグラスの緑も淋しく
あれから受話器握らない心落ち着き
丸裸の子供追い掛ける母の声も暑く

◇中村真理
背をむけて浴衣の帯をとく女
隠れ宿舌にとろける夜の桃
短夜や泣いてもえくぼのできる女(ひと)
雷鳴は天の怒りか忍ぶ恋
愛し合い過ぎた帰りの雷雨かな

◇谷田越子
夏の余白に探し回る私の居場所
石段上がると涼風が影もくつろぐ
思い出はゆるくいとおしく包装する
ふざけすぎた風が言葉たたむ夕暮れ
うみをわたりあいにいく鳥になる

◇後谷五十鈴
登りつめ凌霄花炎の色となる昼下がり
明けやらぬ涼しさ蜩鳴く狭間の感傷
眩しい夏を素直に午後の風が抜ける
こころ寄り添う仄暗い朝の雨音
降る雨に薔薇は散って更にバラ色

◇阿川花子
鴎一羽二羽次々飛び立つ何か察知したのか
(帰船待つ魚河岸)
夏服上下の色合せの哀し過去の感覚
この齢のつい縦結びになる指の癖
あんな事こんなこと詰込んだこの壷
浦島のように箱の中から昨日の暑気が

◇前田佐知子
ようやく登りつめた丘の白い夾竹桃の花
日曜には何かある異例なる猛暑
ほどよくできて目玉焼起きてこない
酷暑何も鳴かない二時の昼さがり
昼 唐辛子の青を焼いて食べよう

◇天野博之
真珠貝で掘り君と埋めた処暑の夕日
女ごころのルビの振り方犬に聞く
やあ暫く話さておきまあ一杯
炎天仰向けで懺悔する蝉の骸
展翅した魅惑の紫は念願の蝶

◇幾代良枝
厨の窓は風と凌霄花の小さなお祭り
魂のようなボールがひとつ夜ふけの
炊飯器がつぶやき始めた一人分の食事
別れ際のジャンケン病人に勝ってしまった
もう歌えない君の愛唱歌はがんばろう

◇三好利幸
地下に潜む壊れた映画館へと
思慕する砂利道農婦の影呑む
ノウゼンカズラだらけだ翳る町
青葉いりみだれ少女風と交わる
あの日の事の釘伝い来る雨

◇増井保夫
俺の人生しけもくでもちょっと火がついとる
少年の頃の森いま山百合はいない
鳥瞰図で生きる町モグラで生きるんだ
アンデルセンは焼肉が好きだった
いらんこといわんがいい人生まっしぐら


☆凌霄花:ノウゼンカズラ

※異体字は勝手ながら変更しました。例えば「蟬」という字は環境によっては表示されないため「蝉」としました。