2011年6月26日日曜日

きやらぼく2011/06

◇藤田踏青
松枯れ続き日本というデッサン
硝子体の中で踊っているピエロ
影を刻みひっそりとキリシタン灯籠
残雪を象嵌している北アルプス
生命線を回収し尽した薬の紙

◇幾代良枝
紺碧の海沿い走らせ浮雲に心寄せる
病人うつろに手をかざし握れば振り払う
雛に餌をやらないカナリヤの仄かな体温
不慣れな筆談迷走し痛い体で君は笑う
夕闇車窓が映す私の人生の一シーン

◇斎藤和子
妹の五十日祭は一人で青葉の中(妹逝ってからの五句)
散るは淋しき妹よきれいに散っていく
妹逝って訪れる人もなく今日も暮れる
この心わかってくれたのは夕暮れの妹の顔
茶碗の音響くだけ妹逝ってからの独り言

◇三好利幸
いるかとふりむき足音のある
ひとり躓いては白日に欺かれ
少女瀝り崩れ行く石段
切れ切れと悲憤の泥に埋まる
たじろいで青黒き街角にいる

◇阿川花子
試行錯誤へ指の表情がちらちらする
空の空に鳶の輪かレーザー治療室の窓
今日の禍も昨日になった夜半に降る雨
子の年齢が追いかけてくる速さ
うぶすな神が被災地の瓦礫に立ち給う

◇中村真理
はなみかん猫とちょうちょの通る庭
梅雨晴れやマドレーヌ色の猫の鈴
梅雨冷えやおエライさんの決めた事だよ
あの頃はコレで障子に穴あけた
カレシよりペットが大事さくらんぼ

◇山崎文榮
磯の松の芯しんしんと蝶を見うしなう
道路がまがっていて海岸の白い花
漁夫ひたすら沖へ沖に魚場がある
大根おろしちりめん雑魚の小さな眼
月のひとりゆく老女の小さな夢

◇前田佐知子
時には軍歌口元に昭和一桁の私
熱い味噌汁がいいすっぽり梅雨の中
テレビ情報少しづつ途絶え空豆の皮をむく
メモした買物山に押し体快調
梅雨の快晴心ちよく一日生涯とゆう

◇山本弘美
花の終わった鉢を外へ風が微笑む
古切手集める友にメールで詫びをする
ひとを変える母をなくすということ
妹とだけ通じる思い出し笑いのいとおし
よたよたとそれでも生きてゆく靭(つよ)さ

◇谷田越子
青葉のしずく思い出が降りてくる
水音青く爽やぎ風の終点に座る
太陽の視線柔かに花みずき染まる過程
速達便で運ぶ愛をツバメの嘴
空の議題多く雲はいつまで会議中

◇後谷五十鈴
寄り添い這い上がる青い繁み
記憶の断面をバラが開く空間
孤独な郭公が啼く彼方の恐音
束縛を解き透明な風と遊ぶ一日
鳥と猫とバケツ一杯の花殻摘む

◇天野博之
満身に光を放ち記憶の冥さかき分ける
私ではない私を残し無言で出ていく
無表情な男を見つめ鏡の向こうの男が笑う
やがては羽化し大志果てなき大空へ
待ち合わせ蛍になって闇の道行き