2011年4月24日日曜日

きやらぼく 2011/04



◇前田佐知子

プール陽に映えてガラスに大夕焼

一斉に咲いてラッパ水仙お日さまと笑う

まんじりともせず明けて冷たい春の温度

真っ白なタオルで磨きトイレの神様

春陽のこぼれしっかりもらい洗濯もの干す



◇藤田踏青

声も涙も削り去り この切断面

原発崩壊 黙示録がかすんでゆく

受取り人がいない斜めの郵便受け

あたたかいものに満ちる両手と人語

蒼い蛇が横たわっている三陸海岸



◇中村真理

ストーブの炎かすかな薄眠り

なごり雪都会の男(ひと)のうすなさけ

春火燵叱られたくて煙草すう

はるうれいビーズのかけらおよそ百

うららかや貴男と私が生まれた四月



◇阿川花子

凄惨な被災地に誰が雪を降らすのか

テレビに映る惨状に眼も唇も乾く

「神々の黄昏」の章を想起する我が終焉近く

地も空も汚染の報が今日一日尽きなく

なのに雪の様な花が足許に震災十日目



◇谷田越子

月の雫で完成する桜襲の恋文

咲いて愛しく桜散りゆく時は尚更に

逢える予感の小さな春を買う

苛立ちはほどいても縺れる雪柳の糸

生と死の狭間くぐり抜け生き抜く力(被災者)



◇後谷五十鈴

ひしひし迫るもの陽は朧に地に堕ち

満開の幻相今年の不遜な花の無情

異国の戦場か脆弱なこの世に降る雪

巡りくる春の拙さ曝すその中に棲む

心許なく生きて竹林春の嵐が騒ぐ



◇増井保夫

話は伸ばせ仕事はあした今日は飲む

シャッター通り閑散と僕の心は隙間風

昼酒飲んで一人佇む

夕暮れの大山に赤い雪一人気色ばむ

鶏小屋で寝る鳴き声で起きる朝



◇三好利幸

春揺れ般若の面は背中で

誰も無く裏道抜ける足音

断ち割って侵し来る風のにおい

警鐘跡絶ち白煙の涯

人群悲しく少年壊れた家へ



◇山本弘美

ヒトの想定押し潰す邪神の嘲笑

逃げ場は空だけひとに翼があったなら

何を言っても空虚な画面の中の地獄

優しさと偽善の区別さえ微妙な掌

何か出来ることをひとの心の小さな芽



◇天野博之

蕾を脱いだ木蓮の裸体にコンテ走らす

恋のめまいに足が縺れて真っ逆さま

淋しくばこの手握れと腕切り落とす

閃き呼び合いパズルつながる男と女

蜜蜂の羽音に合わせ春うねり来る